[実験生物の解説]
<目次>
- シアノバクテリアとは?
- Synechocystis sp. PCC 6803とは?
- 好熱性Thermosynechococcus
elongatus BP-1とは?
- Anabaena sp. PCC 7120とは?
[シアノバクテリアとは?]
- 系統的位置:酸素発生型光合成を行う唯一の分類群で、真正細菌に属する。外膜とペプチドグリカンの細胞壁をもち、「グラム陰性菌」の範疇にはいるが、典型的な「グラム陰性菌」とは系統的に離れている。つまり、真正細菌のなかでの系統的位置は未確定で、シアノバクテリアにもっとも近い細菌が何であるかは、はっきりしていない。なお、酸素を発生しない「光合成細菌」とも系統的に離れている。
[参考]「光合成細菌」とは、酸素発生をしない真正細菌の光合成生物の便宜的総称で、紅色光合成細菌、緑色イオウ細菌、緑色非イオウ細菌、ヘリオ細菌などの全く異なる系統分類群を含んでいるが、伝統的にシアノバクテリアを含まないことになっている。
- 分類群の名称:「ラン藻(藍藻)
blue-green algae」ともいうが、原核生物であり、他の藻類とは全く異なる分類群である → 「シアノバクテリア(ラン色細菌) cyanobacteria」という。
- 葉緑体との関係:
シアノバクテリアの系統樹は葉緑体の系統を含む → シアノバクテリアは植物と同じ「酸素発生型光合成」を行う葉緑体の祖先生物である。
→シアノバクテリアは植物のモデル生物or葉緑体のモデル生物である。しかし、葉緑体の系統にもっとも近いシアノバクテリアはどの種か、はっきりしていない。
→葉緑体も単系統=シアノバクテリアは10数億年前に真核生物に1度だけ、細胞内共生(1次共生)して葉緑体となったという。 ⇔ 2次共生は、何度も起こっている
→藻類でもっともシアノバクテリアに近いものは? =シアノフォラ類(灰色藻)といわれている
- 多様性:どんなシアノバクテリアがいるか?
単細胞性/多細胞性(糸状性、分枝状)
窒素固定型(ヘテロシスト形成/非ヘテロシスト形成)/非窒素固定型
細胞分化:ヘテロシスト、akinete(休眠胞子)、ホルモゴニア(連鎖体)
運動性:gliding、twitching、swimming *ただし、鞭毛をもたない
淡水性/海洋性/土壌性/耐塩性/好塩性/好アルカリ性/耐乾性
耐冷性/常温性/好熱性
非酸素発生型光合成
free living/共生型 (地衣類、シダなど)
光合成色素の多様性:クロロフィルa/ジビニルクロロフィルa/クロロフィルd
光合成補助色素の多様性:クロロフィルb/ジビニルクロロフィルb/フィコシアノビリン/フィコエリスロビリン
応用:食用(水前寺ノリ、Spirulina)、食用色素、廃水処理?、その他
→ リンク:藻類画像データ(筑波大学)
- 分類:
旧来の分類では:クロオコッカス目、ネンジュモ目、
一方、リボソームRNAなどに基づく分子系統では、大まかに10?の系統に分かれる→シアノバクテリアの系統樹
- PCC(Pasteur
Culture Collection) numberとは:
シアノバクテリアの分類・学名は非常に混乱しており、現在通用している属名や種名のいくつかは分子系統を反映していない。そのため、種名の同定を延期して、世界的に通用しているPCCやATCC(American
Type Culture Collection)の「株番号」で代用しているものも多い。また、Synechococcus
や Oscillatoria などは非常に多くのグループに分かれるので、近い将来にはその属名も改訂されるであろう。
- ゲノムプロジェクト一覧表
[Synechocystis sp. PCC 6803とは?]顕微鏡写真
- 増殖培地BG11、至適温度約34℃、増殖速度:最適条件で約8時間で倍加、淡水産(カルフォルニア)だが中度の耐塩性を示す(グルコシルグリセロールを蓄積)、単細胞性球菌(約2μm)、直交する2平面で細胞分裂、非窒素固定型、色素:クロロフィルa+フィコシアノビリン(*フィコエリスロビリンをもたない)
- 4番目の生物として、全ゲノム塩基配列決定(Kaneko et al. 1996) → 3573471塩基対(約3100個の遺伝子)
→ 遺伝子リスト、ホモロジー → リンク:CyanoBase(かずさDNA研究所)
プラスミド:pCA2.4 (2.4kbp) pCB2.4 (2.4kbp) pCC5.2 (5.2kbp) pSYSG (45kbp) pSYSA
(110 kbp) pSYSM (125 kbp) 未同定のプラスミド:少なくとも1種
- シーケンスされたかずさ株は、GT(glucose-tolerant)株由来であり、さらにその源のPasteur
Culture Collectionの保存株(いわゆるPCC株:strain
number 6803)とよく似ているが、相互にいくつか形質の違いがある。
→小進化のモデル(+株の履歴) 系統図 解説
- 添加したDNAを取り込んで、2回交叉型相同組換により形質転換する(自然形質転換型 → 実験例)ので、遺伝子破壊や外来遺伝子の導入が容易 *形質転換に前処理不要
→ ポストゲノムプロジェクト進行中
- 通性光独立栄養(グルコース利用) → 光合成遺伝子の破壊が可能 → 光合成代謝システムの解析
◎光合成の遺伝子がもっとも詳しく研究されている生物である。
- twitching運動性(正と負の走光性)を示す → 走光性、運動性が欠失する変異株を多数単離
[好熱性Thermosynechococcus elongatus
BP-1とは?]顕微鏡写真
- 増殖至適温度57℃、単細胞性桿菌 (1×5〜10 μm)、運動性、培地BG11または好熱性シアノバクテリア用培地、別府温泉由来(株名
BP-1)
- タンパク質の熱安定性が高いので、生化学的解析などに適している
→ 光化学系2複合体の結晶化
→ 光化学系1複合体の結晶化
- 形質転換が可能:エレクトロポレーション法+トップアガー法
- 絶対光独立栄養、非窒素固定型
- 分子系統樹によれば、Gloeobacterについで古い、独自の系統を形成。元来は「Synechococcus elongatus
strain BP-1」という。しかし、Synechococcus sp. PCC 7942などとは全く異なる系統なので、属名変更。
→ Thermosynechococcus elongatus strain BP-1
- Thermosynechococcus vulcanus (和歌山県湯の峰温泉由来 至適57℃)とは非常に近縁:亜種か?
Synechococcus lividus (米Yellowstone Spring由来 至適72℃)ともrRNAレベルで98%相同=同属別種か?
- ゲノムサイズ:2,593,857 bp → リンク:CyanoBase
(かずさDNA研究所)
[Anabaena sp. PCC 7120とは?]顕微鏡写真
- 糸状性、ヘテロシスト形成型窒素固定を行う
- 形質転換が可能:
- ゲノムサイズ: